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神戸地方裁判所 昭和46年(ワ)35号 判決

原告

株式会社ユーハイム

右訴訟代理人

石黒淳平

外六名

被告

株式会社ユーハイム・コンフエクト

右訴訟代理人

保津寛

外三名

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

第一次請求の趣旨

1、被告は、洋菓子販売について、「ユーハイム」と「コンフエクト」とそれぞれ異なる大きさの文字を用いた商標を使用してはならない。

2、被告は、洋菓子販売について、「ユーハイム・コンフエクト」又は「ユーハイムコンフエクト」なる文字の「ユーハイム」又は「ユーハイム・」と「コンフエクト」又は「・コンフエクト」を分離し二段に表示した商標を使用してはならない。

3、訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

予備的請求の趣旨

1、被告は、洋菓子販売につき、別紙(一)第一ないし第六記載の商標を使用してはならない。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、仮執行宣言

二、被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一、請求原因

主位的請求

(一)  原告は、昭和二五年一月三一日、株式会社ユーハイム商店として設立登記され、その後、商号を株式会社ユーハイムと変更し、また、昭和二六年六月一四日、登録番号第三九九五八八号、指定商品第四三類菓子及び麺麹に「Juchheim's」(ドイツ人ユーハイムの名を図案化した花文字体、以下これを「花文字体ユーハイム」という。)なる商標の登録を得(但し、昭和四六年六月二四日期間満了により消滅同年七月八日抹消登録)、更に、昭和二九年一月一三日、登録第四三七六七四号指定商品第四三類菓子及び麺麭「juchheim'sユーハイム」なる商標を前記第三九九五八八号の連合商標として登録を得、肩書地に本店を置き、洋菓子一般の製造販売を業としているものである。

被告は、昭和二六年四月二三日、本店を神戸市生田区三宮町二丁目一番地に、支店を同町二丁目三二番地の一に置き、株式会社ユーハイム・コンフエクトとして設立登記され、その後、肩書地に本店を移し、右従前の本店を支店として、洋菓子一般の製造販売を業としているものである。

(二)  原告は、被告に対し、昭和二六年一〇月五日、当庁に商標使用禁止の仮処分(当庁昭和二六年(ヨ)第三九八号)を申請してその認容決定を受け、更に、原告は、被告に対しその製造販売にかかる菓子類およびその容器、包装紙等並びにその営業に用いる看板等に商標として「ユーハイム」なる名称を使用してはならないとの趣旨の本訴(当庁昭和二六年(ワ)第九五二号)、及び被告はその商号に「ユーハイム」なる文字を使用してはならない。被告は、神戸地方法務局受付第八七一一三号の「株式会社ユーハイム・コンフエクト」なる商号の抹消登記手続をせよ、との趣旨の本訴(当庁昭和二六年(ワ)第九五三号)をそれぞれ提起した。

その後、右訴訟係属中の昭和三〇年四月二三日、右各本訴において、原・被告間に裁判上の和解(以下、「本件和解」という。)が成立した。その和解条項第一項ないし第四項は次のとおりである。

和解条項(原告は本訴原告、被告は本訴被告。和解条項全文は別紙(二)のとおりである。)

(1) 原告は被告が株式会社ユーハイムコンフエクトなる商号及び片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」並びにローマ字による別紙(三)(ロ)記載の書体の商標の使用を認めること。

(2) 原告は被告の「ユーハイム・コンフエクト」なる片仮名による商標の登録につき、現に特許庁に申立てている異論は後記金五〇万円の支払いと同時に右申立の取下書を被告に交付すること。

(3) 被告は第一項記載以外の商標、特に別紙(三)(イ)表示の原告の商標と同一又は類似の商標を使用しないこと。

(4) 被告は原告に対し和解金として金一二〇万円の支払義務あることを認め、昭和三〇年四月末日に内金五〇万円也、同年五月、六月、七月の各末日に金二〇万円宛、同年九月末日に残額一〇万円也を、右事件原告訴訟代理人竹内岩男事務所に持参又は送金して支払うこと。

(三)  しかるに、被告は右和解の成立後六ケ月を経ずして、その経営する洋菓子販売において、自己の商品表示及び営業者表示に別紙(一)第一ないし第六記載のような表示(以下「本件第二表示」という。)を使用している。

1 神戸市生田区三宮町二丁目三二番地の被告会社店舗において

イ、店舗正面の壁面に横書にて「ユーハイム」と大きい字で書き、其の右下にこれより約四分の一位も小さい字で「コンフエクト」と小書し、

ロ、店舗の看板にも「ユーハイム」と大書し、これより二分又は三分の一位小さな細字で「コンフエクト」と小書し、

ハ、右店舗付近の電柱の広告板にも「ユーハイム」と大書し「コンフエクト」と小書し、

2 同市生田区三宮町二丁目一番地の店舗において、店舗正面階上の横書看板及び立看板に、夫々「ユーハイム」と大書し、「コンフエクト」と小書し、

3 被告会社の菓子箱のレッテル及びカードには、横書きにて「ユーハイム」と大書し、これより四分の一位の小さな細字で「ユーハイム」の直下より「コンフエクト」と二段書きにて小書し、

4 その他、被告会社の包装紙類、パンフレツトなどの広告物類に「ユーハイム」と大書し、「コンフエクト」を右下に、又は、二段書きに小書し、

さらに、各デパート、名店街その他に被告会社の店舗若しくは、被告会社の製品販売をなす販売店舗がふえるにつれて、本件第二表示の如き態様の商標の使用が次第に広くなされるに至つている。

5 右の如く、被告は「ユーハイムコンフエクト」(「ユーハイム」と「コンフエクト」の間に「・」があるものとないものとある。)という文字を使用するに当り、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分を同等の比重で用いず、「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分に比して小さく書き、或いは「ユーハイム」の下部に二段書きにし、これを一連不可分に表示していない。

(四)  以上のように、被告は本件和解調書第一項記載の態様以外の商標を使用しているが、右は同条項第三項に違背するものである。即ち、本件和解条項第一項は「ユーハイムコンフエクト」と一行で同等の比重で一連不可分に表示されており、更に本件和解調書添付の別紙(三)を併せ考えると「コンフエクト」を小さく表示したり、二段書きしてはならないことが明示されているものである。仮りに明示の条項がないとしても本件和解においては、原告は商標権にもとづく禁止権の解除を本件和解によつてなし「ユーハイム・コンフエクト」の使用許諾をしているのであるが、商標の使用許諾においては標章の指定は重要な意義を有するものであり、使用許諾の範囲は指定された商標に限定されるのであり、本件和解における許諾範囲は一連不可分の表示方式による「ユーハイム・コンフエクト」であり、大小書き、二段書き等の表示は使用許諾の範囲外である。仮りに本件和解に明示の条項がないとしても、被告は「ユーハイム・コンフエクト」の表示使用に当り客観的にみて取引上の信義誠実に反した不正競争的な用い方をしてはならず、又消費者に混同をより大ならしめる傾向の用い方をしてはならないところ、被告の本件第二表示ないし前記のような大小書き、二段書き表示はこれに反するものである。なお、本件和解当時においては「コンフエクト」という語は一般に知られなかつた語であるが現在では普通名詞に近い感覚でとる者もあるようになつて来たのであるが、かかるとき「コンフエクト」を小さく表示したり、二段書きすることはその表示は「ユーハイム・コンフエクト」ではなく、むしろ「ユーハイム」であり、原告の使用許諾の範囲を超えたものであり、原告の商標権を侵害するものである。よつて、原告は右商標権にもとづき、先づ、第一次的に第一次請求の趣旨記載の如き大小書き、二段書き表示(以下、単に「本件大小・二段書き表示」という。)の差止めを求め、予備的に本件第二表示の差止めを求めるものである。

予備的請求

(一)  原告の「ユーハイム」なる表示は、原告の商品及び営業を示す表示として、少なくとも神戸市及び名古屋市内において広く認識せられているところ、

(二)  被告は、原告の右表示と類似する本件第二表示を被告の商品又は営業を示す表示として不正に使用している。

(三)  そして、被告の右表示は原告の商品、又は営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめる意のあるものであり、且つ、現実に混同を生ぜしめている。

イ 例えば、昭和四二年一二月、大阪国税局合同庁舎地下売店において、クリスマス・ケーキの予約註文を訴外大特商事株式会社がなすに当り、混同誤認を生ぜしめる虞のある行為を右訴外会社がなしていたので、原告が警告をしたところ、右訴外会社は明らかに原・被告の営業を混同していたことが判明した。

ロ また、昭和四三年一月六日、元原告代表者エリゼ・ユーハイム宛に、被告支店を住所表示とし、原告代表者を被告代表者表示として、商品「バウムクーヘン」に対する注意の投書があり、投書者を訪れたところ、原・被告の営業及び商品を混同していた。

右の如き、混同誤認の事例は枚挙にいとまがなく、従つて、原・被告の営業又は商品は、取引界において現に混同誤認せられている。

(四)  被告が「ユーハイム・コンフエクト」の「コンフエクト」部分を小さく表示し、更には、二段書きに表示することは請求原因第一の二、記載の裁判上の和解に違背するものであり、且つ、消費者に原・被告の営業又は商品の混同をより大ならしめる傾向の不正競争的用法であり、権利濫用であつて許されない。

よつて、原告は被告に対し、第一次的に本件大小・二段書き表示の差止を求め、予備的に本件第二表示の差止を求めるものである。

二、請求原因に対する認否〈略〉

第三  証拠〈略〉

理由

第一第一次請求について

一(一) 原告は、昭和二五年一月三一日株式会社ユーハイム商店として設立登記され、その後、商号を株式会社ユーハイムと変更し、また、昭和二六年六月一四日登録番号第三九九五八八号、指定商品第四三類菓子及び麺麭に花文字体ユーハイムなる商標の登録を得(但し、花文字体ユーハイムは昭和四六年六月二四日期間満了により消滅、同年七月八日抹消登録)、更に、昭和二九年一月一三日登録第四三七六六七四号指定商品第四三類菓子及び麺麭に「花文字ユーハイムユーハイム」なる商標を前記第三九九五八八号の連合商標として登録を得、肩書置に本店を置き、洋菓子一般の製造販売を業としていること、

被告は、昭和二六年四月二三日、本店を神戸市生田区三宮町二丁目一番地に、支店を同町二丁目三二番地の一に置き、株式会社ユーハイム・コンフエクトとして設立登記され、その後、肩書地に本店を移し、右従前の本店を支店として、洋菓子一般の製造販売を業としているものであること、

(二) 原告は、被告に対し、昭和二六年一〇月五日、当庁に商標使用禁止の仮処分(当庁昭和二六年(ヨ)第三九八号)を申請してその認容決定を受け、更に、原告は、被告に対し、その製造販売にかかる菓子類及びその容器、包装紙等並びにその営業に用いる看板等に商標として「ユーハイム」なる名称を使用してはならないとの趣旨の本訴(当庁昭和二六年(ワ)第九五二号)、及び被告はその商標に「ユーハイム」なる文字を使用してはならない。被告は、神戸地方法務局受付第八七一一三号の「株式会社ユーハイム・コンフエクト」なる商号の抹消登記手続をせよとの趣旨の本訴(当庁昭和二六年(ワ)第九五三号)をそれぞれ提起し、その後、右訴訟係属中の昭和三〇年四月二三日右各本訴において、原・被告間において本件和解が成立したこと、

(三) 被告は、本件和解成立後もその経営する洋菓子販売において、「ユーハイム・コンフエクト」を商号又は商標として使用するに当り、その表示の場所、物件において、又、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の文字の大きさの割合、太さ、或は配列等において、原告の主張と多少の差異はあるとしても、縦書の場合には一行にして「ユーハイム」と記載し、それに小さく「コンフエクト」と続け、横書の場合は、横一行に、直線に、或は湾曲して「ユーハイム」と書き、それに小さく「コンフエクト」又は「・コンフエクト」と続け、二段書きする場合には「ユーハイム」の下段に行をかえて小さく「コンフエクト」と記載するなどの方法で本件第二表示と同じ様な態様でこれを表示し、現在に至つていること、

以上の事実は当事者間に争がない。

二そこで、本件にあつては本件第二表示ないし本件大小・二段書き表示が本件和解に違反するや否やが根本問題となつているのでこの点について判断する。

〈証拠〉を総合すると、

(一)  戦前、神戸市内でドイツ人シ・カール・ユーハイムとその妻エリーゼ・ユーハイムが経営していた「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリ」は「バームクーヘン」などのドイツ菓子の製造、販売で有名な洋菓子店であり、その商標として「ユーハイム」(花文字体ユーハイムを含む)を使用していたが、戦災によつて工場の一部が焼失し、カール・ユーハイムは昭和二〇年八月一四日病死し、エリーゼ・ユーハイムも夫死亡後営業を廃止したため右商標も放置されていたところ、戦後間もなく神戸市内において右「ユーハイム」の標章を商号や商標に使用する洋菓子店が乱立するようになつたこと、エリーゼ・ユーハイムは昭和二二年二月頃、連合国により本国ドイツに強制送還されたが、昭和二八年頃、再び来日し、神戸市内に居住するようになり、昭和二九年一一月頃、原告会社の取締役に就任したこと、

(二) 被告会社の代表取締役西義弘は、戦後間もなく神戸市生田区で「ドミノ・ベーカリー」の名称で個人で洋菓子の製造、卸販売をしたこと、ところで、訴外李金竜は昭和二四年一〇月頃から同区三宮町三丁目(鯉川筋)で「ニユーユーハイム」という名称で洋菓子店を経営していたが同月末頃訴外西村英孝に右店舗を譲渡したこと、その後、右西村は同市内生田筋に店舗を移転し店の名前も「ユーハイム菓子店」と改称して営業を行つていたところ、前記西が右西村の共同事業者として加わることになり、共同経営で洋菓子の製造販売をしていたが、個人企業を会社組織に改めることになり、昭和二六年四月二三日付で兵庫県より食品衛生法二一条の規定による菓子製造業の許可をうけ(同日、前記一のとおり本店を同市生田区三宮町二丁目一番地に、支店を同町二丁目三二番地の一に置き、商号を株式会社ユーハイム・コンフエクトとして設立登記をし、その後、肩書地に本店を移転し、従前の本店を支店として洋菓子一般の製造販売をしていることについては当事者間に争がない)、その後、被告は昭和三〇年六月二九日登録番号第四六七四八号をもつて指定商品第四三類菓子及び麺麭の類において「株式会社ユーハイムコンフエクト」という商標の登録(出願昭和二六年一一月三〇日、公告昭和二七年一一月一九日)を得ていること、更に、昭和三三年七月三〇日登録番号第五二二七九二号をもつて同類において「KK. YUHIMU CONFCET」の文字商標及び人形図形の商標登録を得ていること、そして昭和四六年頃においては、資本金四、七五〇万円、年商約一〇億円、直売所約三〇ケ所であること。

(三) 原告は、もとカール・ユーハイム、エリーゼ・ユーハイム夫妻の経営する「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリー」の従業員であつた訴外山口政栄及び同川村勇と本件和解当時の原告会社の代表取締役であつた平川五百治の三人が共同で昭和二四年二月頃、神戸市生田区下山手二丁目五番地において開店した「ユーハイム商店」を前身とするものであるが、右山口及び右川村がかつて「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリー」に勤めていたことから、前記のように放置されたままになつていた商標「花文字体ユーハイム」を右「ユーハイム商店」の商標として使用することになり、これを商標として洋菓子の製造、販売を営んでいたところ、その後、前記一のとおり個人営業を会社組織に改め昭和二五年一月三一日「株式会社ユーハイム商店」として原告会社を設立し現在に至つていること、そして、昭和四六年における資本金は二億四千万円、従業員約千名、売場二五〇個所、売上高約四二億円であること。

(四)  被告は、会社設立以来商標として「ユーハイムコンフエクト」を使用し洋菓子の製造販売をし来たのであるが、右商標を表示するに当つては看板、広告、マツチ、包装紙などに、片仮名で縦或は横一行に、同じ大きさの字で「ユーハイムコンフエクト」或は「ユーハイム・コンフエクト」と書いたり、「コンフエクト」を「ユーハイム」よりやや小さい字で書いたり、二段書きに「ユーハイム」の下段にこれと同じ大きさ、またはやや小さい字で「コンフエクト」と添えて書いたり、時には「ユーハイム」と書いたり、ドイツ文字で「yuchheim」及び片仮名の花文字で「ユーハイム」と併記したり、「yuchheim」の下段にやや小さく「Confct」(ママ)或は「コンフエクト」と記載したりするなど種々の表示方法をとつていたこと。

(五) ところが、原告は、被告会社設立後である昭和二六月六月一四日、前記のとおり「花文字体ユーハイム」の登録を得、同年七月一〇日兵庫県より食品衛生法による菓子製造の許可をうけ、洋菓子の製造販売を始めたこと、(そして間もなく、被告が商号、商標として使用している前記のような表示は、原告の登録商標に抵触するとして前記一のとおり、同年一〇月五日、当庁に被告を債務者として商標使用禁止の仮処分(当庁昭和二六年(ヨ)第三九八号)を申請しその認定決定をうけたことは当事者間に争がない)右仮処分申請について、同月一七日、「被申請人(被告、以下同じ。)はその製造又は販売にかかる洋菓子及びその容器、包装紙等に国字の如何を問わず容易に「ユーハイム」と発音される文字を商標として使用してはならない。被申請人は、右の文字を商標として広告、看板等に使用してはならない。被申請人は、前各項にかかわらず前項「ユーハイム」と明らかに識別される方法で「ユーハイム・コンフエクト」なる文字を使用することも妨げない。」との趣旨の仮処分決定をうけ、続いて、原告は同年一一月に同裁判所に再び商標使用禁止の仮処分申請をなし(当庁(ヨ)第四六六号)、同年一二月二六日、「被申請人は、その営業について使用する看板類、並びに製造販売する洋菓子の包装紙、紙容器、挿入紙にはそれぞれ一個所に限り同一の黒色明朝体の書体を用いて「株式会社ユーハイムコンフエクト」と商号を表示するほかは、文字、色調、図柄を問わず「ユーハイム」なる称呼を含む表示を使用してはならない。」との趣旨の仮処分決定を得たこと。

(六) そして、原告は、前記一の(二)に記載したように、被告に対し、当庁に、当庁昭和二六年(ワ)第九五二号、第九五三号の本訴を提起したが、右第九五二号事件においては、原告は、「花文字体ユーハイム」なる登録商標を有しているところ、被告は、右商標を熟知しているに拘らず、その販売にかかる洋菓子類の包装紙、紙箱等にドイツ文字で「花文字体ユーハイム」、日本文字で「ユーハイム」と印刷のうえ使用し、かつ営業所の広告看板にも右商標をほしいままに表示使用しているのは商標権の侵害であると主張し、花文字体ユーハイムの登録商標権にもとづき「ユーハイム」と同一又は類似の商標の禁止を求め、また、右第九五三号事件においては、原告は、株式会社ユーハイム商店なる商号を有するが、被告は、右商号、営業目的を知悉しながら、商号を原告のそれと極めて類似する株式会社ユーハイム・コンフエクトとし、目的を原告と同様にし、近々三町足らずに位置して営業するものであり、一般世人をして商号の主体を混同誤認せしめる類似商号であり、不正競争の目的でもつてこれを使用するもので、違法であると主張し、被告の商号に「ユーハイム」なる文字の使用の差止を求めるとともに被告の商号「株式会社ユーハイム・コンフエクト」の抹消登記を求めていたこと、これに対し、被告は、「ユーハイム・コンフエクト」を商標として使用するに当り「ユーハイム」と大書し、「コンフエクト」を小さく書いて一行書き、又は二段書きする表示方法をとつても原告の有する商標、商号の「ユーハイム」には抵触しない。仮りに抵触するとしても、被告は、原告が前記商標を登録する以前より右のような「ユーハイム・コンフエクト」を自己の商標として善意使用しており、いわゆる先使用権があると主張していたものである。

(七)  ところで、前記各本訴は併合審理され、一旦、結審となつたが、その後弁論再開となり、裁判所の和解勧告により数回に亘る和解期日が重ねられたる後、前記のとおり、昭和三〇年四月二三日、別紙記載のような和解条項で本件和解が成立したこと。

(八)  本件和解は、原告側は、当時の代表取緒役平川五百治、代理人竹内岩男、川見公直弁護士(尤も、川見弁護士は和解成立時には欠席。)、被告側は、代表取締役西義弘及び代理人谷賢次弁護士が出席して話合いがなされたこと、和解成立の過程においては紛争の円満解決のため種々提案がなされたが、結局、双方の商号、商標は現状どおり使用を認めることとし、被告において、原告に対し、商号及び商標として「ユーハイム・コンフエクト」を使用する対価として金一二〇万円を支払うこととして別紙記載のような和解条項の本件和解が成立したこと。

(九)  そして、本件和解においては、原告は、和解当時、「花文字体ユーハイム」及び花文字体ユーハイムの連合商標である「ユーハイム」の二つの登録商標を有していたが、「花文字体ユーハイム」は「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリー」においてユーハイム夫妻が使用していた商標であるということで特に強い愛着を示し、これと同一のものは勿論、類似商標の使用を絶体に禁止するという強硬な意向を示したため、被告もこれを了承し、特に、別紙をもつて原告の花文字体ユーハイムの書体を明示するとともに、これに対置して被告の商標である「ユーハイム・コンフエクト」をローマ字で記載する場合についてその書体を明示してこれが使用を認め、「花文字体ユーハイム」と同一又は類似の商標の使用を厳禁したが、片仮名文字で「ユーハイム・コンフエクト」と表示する場合については、特に、縦書、横書の別、文字の大小書き、二段書き、の可否等具体的な表示方法まで論義しなかつたこと、和解期日が重ねられたのは前記和解金の額について伸々折合いがつかなかつたことにあること、そして、原告は、被告に対してその商号、商標として「ユーハイム・コンフエクト」の使用を許諾したこと、被告は、当時商号として「株式会社ユーハイム・コンフエクト」の登記を有していたが、商標については、昭和二六年一一月三〇日指定商品四三、菓子及び麺麭の類において、「株式会社ユーハイムコンフエクト」の商標を出願し、昭和二七年一一月一九日登録出願の公告がなされたところ、本件和解当時、原告は右商標登録について、異議を述べていたものであるが、右異議を取下げることにしたこと。

以上の事実が認められ、〈反証〉は前掲各証拠に対比してにわかに措値し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三以上認定のような紛争の実情、訴訟提起より本件和解に至るまでの経緯、並びに本件和解条項を総合すると、本件和解は長期間に亘る当事者間の紛争を抜本的に解決することとし、基本的には原告は被告に対し紛争の原因となつた「ユーハイム」と「コンフエクト」より成る商号、商標を認めることにあつたのである。そこで、本件和解においては、原告は被告に対し、被告が、(イ)「株式会社ユーハイムコンフエクト」なる商号を使用すること、(ロ)片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」並びにローマ字による商標(ローマ字については書体を別紙(三)(ロ)記載のとおり限定)を使用することを認める反面、右(ロ)以外の商標、特に、原告の登録商標「花文字体ユーハイム」と同一又は類似の商標の使用を禁ずるとともに、「ユーハイム・コンフエクト」の使用の対価として金一二〇万円を支払うことを骨子として成立したものであり、そして、本件和解条項においては、被告がその商標「ユーハイム・コンフエクト」をローマ字で表示する場合についてのみ特にその表示態様を別紙で限定し、また、被告に対し使用を禁止する原告の登録商標「花文字体ユーハイム」についてもこれを別紙に明示しているにも拘らず、右以外には商号、商標に言及した条項が存しないこと、及び原告が被告の「ユーハイム・コンフエクト」なる片仮名による商標登録につき現に特許庁に申立てている異議を取下げる旨、約したこと等から考えると、本件和解の主旨は、原告は被告に対し、片仮名「ユーハイム・コンフエクト」を商号、商標として使用することを許諾した点にあり、そして、その使用許諾については、その書体、「ユーハイム」と「コンフエクト」の文字の大小書き、二段書きの禁止等、表示態様については特に制限が付せられなかつたものと解するのが相当である。本件和解の原因となつた仮処分およびその本訴に先立つて被告がユーハイム・コンフエクトの二段書き、大小書きの表示方法をとつていたことから原告はこれが禁止を求め、被告はいわゆる先使用権を主張していたものであり、この二つは重要争点となつていたのであつたから、若し、片仮名「ユーハイム・コンフエクト」の使用許諾において、その表示方法として大小書き、二段書き表示を厳禁する趣旨であつたなら当然和解調書に明示されていたものと解せられるところ、かかる明示の条項もなく、更に前記のとおり本件和解に至る紛争の実情、経緯、本件和解の趣旨等その他諸般の事情を考えるも右表示について特に制限が付せられていたものと認めることができないところである。本件和解条項第一項に、「ユーハイム・コンフエクト」と縦一行に書かれてあるからといつて、これをもつて直ちに、原告主張のいわゆる一連不可分に書くことを限定したものと見ることは出来ず、又、本件和解の別紙にYUHAIMU CONFECTと横一行に書いてあるからといつてこれを以て、同様、右一連不可分の表示に限定したものと解することは出来ないところである。

四右の如く、本件和解の主旨は、原告が被告に対し、片仮名「ユーハイム・コンフエクト」を商号、商標として、その表示につき格別の制限を付することなく許諾した点にあるが、これを法律的に見ると、商標について言えば、原告の商標権にもとづく禁止権の放棄をしたものと解するのが相当である。即ち、原告は本件和解当時、前記のとおり、登録番号第三九九五八八号の「花文字体ユーハイム」とこれの類似商標である連合商標第四三七六四号の「ユーハイム」の二つの登録商標を持つていたのであり、被告は、当時「株式会社ユーハイムコンフエクト」の商標登録出願中であり登録がされていなかつたのであるから、原告は右商標権にもとづき「ユーハイム・コンフエクト」の表示がその類似範囲に属すると認められるならば、その使用を禁止する権利を有していたのであるが、原告は、本件和解により右商標権にもとづく禁止権を放棄しその類似範囲に属する「ユーハイム・コンフエクト」の使用許諾を認めたものと言うべきである。本件和解条項第一項の「商標の使用を認める云々」の使用を認める文句は禁止権放棄と表裏の関係にある使用許諾の面からこれを現わしたものと解するのが相当である。蓋し、商標権者は登録商標と同一商標については使用権を専用しかつ禁止権を有するも、その類似範囲においては使用権を有せず、唯、事実上これを使用しうるに過ぎないが、然し、他人の使用についてはこれが使用を禁止する権利を有するからこの禁止権を行使することによつて他人の使用を差止めることができ、第三者は商標権者の禁止権の行使によつて類似範囲の使用ができないことになる。従つて、商標権者が類似範囲の商標使用者に対して禁止権を放棄することは、その使用者については、その類似商標の使用について商標権者から使用許諾をうけた関係と同様のことを意味するからである。

この点について、被告は、「ユーハイム・コンフエクト」のいわゆる先使用権を認めた趣旨に解すべきであると主張するも、前記のとおり、本件和解及びその本訴において、被告は先使用権を主張し、これが重要争点であつたことは認めうるところであるが、先使用権を認める趣旨の文言の記載もなく、又、前記認定の本件和解の趣旨、経緯等諸般の事情を考えても本件和解によつて被告の「ユーハイム・コンフエクト」についていわゆる先使用権をも認めた趣旨に解することは出来ないところである。

ところで、原告は、仮りに明示の条項がないとしても、「ユーハイム・コンフエクト」は結合商標であり、一連不可分に結合されてその構成要素となつている「ユーハイム」との類似性を失うものであり、大小書き、二段書きを許すことは「ユーハイム」なる称呼を許したと同様になることは商標法分野における経験則上明らかであり、本件使用許諾において原告は被告に対して「ユーハイム・コンフエクト」の使用を許諾したのであり「ユーハイム」の使用を許諾したものではないから「ユーハイム・コンフエクト」と一連不可分に表示することが前提となつていたものである、と主張する。

いわゆる文字と文字の結合商標の場合において、構成要素の文字の大小、二段書き、着色の有無その他結合方法如何によつて構成要素の商標と類似性を有し、或は類似性を有しなくなるものであり、これを一連不可分に表示すれば構成要素である商標との類似性を失わせ、自他識別の機能を保持するものであることは否定できないところである。しかしながら、本件においては、前記認定によれば、片仮名文字で表示する「ユーハイム・コンフエクト」について特に表示方法の制限が前提であつたものとは認められざるのみならず、結合商標におけるいわゆる一連不可分の表示は結合商標の類否の問題であるところ、本件においては、原告の登録商標と類似範囲にあるとする「ユーハイム・コンフエクト」を使用許諾した場合であり、このように使用許諾により類似商標の問題のある商標の使用から生ずる或る程度の出所の混同誤認を承認した関係にある場合においては、既に右の如く登録商標について「ユーハイム」と「コンフエクト」より成る表示の限度で類似範囲の使用を認めているのであるから、結合商標のいわゆる一連不可分的表示によつて登録商標と非類似の商標とするということは必ずしも前提となつていないというべきである。

ところで、前記のとおり被告は、本件和解後の昭和三〇年六月二九日、「株式会社ユーハイムコンフエクト」の商標登録(出願昭和二六年一一月三〇日、公告昭和二七年一一月一九日)をうけ、更に、昭和三三年七月三〇日「KK. YUHAIMU CONFECT」の文字商標、及び人形図形の登録を得ていること、一方、原告は、本件和解後の昭和四六年七月八日、登録番号第三九九五八八号の花文字体ユーハイムの抹消登録をしたので、現在においては、登録番号第四三七六七四号の連合商標のうち「ユーハイム」のみが独立商標として存在しているところ、右連合商標は、昭和二六年五月三一日に出願、昭和二九年一月一三日に登録されたことは被告において自陳するところである。そうすると、原告の登録商標「ユーハイム」は、被告の登録商標「株式会社ユーハイムコンフエクト」より先願、先登録の関係に立つが、原・被告はそれぞれの商標権者であるから、各商標の使用権を専有し、かつ、各商標の類似範囲においてはお互に禁止権を有し、類似範囲の標章の使用はお互に出来ないことになるが、然し、本件和解による原告の類似範囲の禁止権放棄の効果は被告の右商標権の登録によつて何等影響をうけないから被告は従前通り、本件和解による使用許諾による原告の登録商標の類似範囲の使用が許容されている点には変りはない。このことは、本件和解条項第二項において、原告は被告に対し右商標登録についての異議を取下げる旨、約している点より見るも明らかである。

五次に、商号についても、前記認定事実によれば、被告は本件和解により「株式会社ユーハイムコンフエクト」という商号の使用を許諾され、右「ユーハイムコンフエクト」を商号として片仮名で表示する場合にはその表示態様につき格別の制限をすることなくその使用を許諾したことが認められるところである。

六しかしながら、他人の商号や登録商標に類似する商号及び商標を使用するが商号権者や商標権者からその使用許諾をうけ、その表示態様に格別の制限を付せられなかつた場合においても、どのような態様の表示をとることも自由であるということはできず、そこには商号および商標が営業主体や商品についての自他識別力の機能を保有しなければならないという商号、商標の基本的性格から来る制約が存するものと解さるべきである。即ち、自他識別の機能を著しく弱めるような表示態様を使用することは許されないと伝わねばならず、本件「ユーハイム・コンフエクト」の表示においても「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分に比して極端に小さく表示したり、或は「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分より著しく離して表示するなど、「ユーハイム」と「コンフエクト」の表示がありながら、和解で使用を許諾されたところの「ユーハイム・コンフエクト」としての表示とは解せられないようなものは許されないと解すべきである。

ところで、前記一の(三)記載のとおり、被告は、本件和解成立後においても片仮名「ユーハイム・コンフエクト」を商号、商標として使用するにつき「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の文字の大小の割合、配列等において原告の主張と多少の差異は認められるが、大体、本件第二表示記載の使用をしていることは当時者間に争がないところ、〈証拠〉を併せ考えると、被告は、現在においては、商号、商標の表示として本件第二表示の如き大小書き、二段書きの表示方法を使用しており、「コンフエクト」部分は「ユーハイム」部分の天地約二分の一程度の大きさで記載されるようになり、「ユーハイム」と「コンフエクト」との間に「・」を入れているのが殆んどであることが認められ、右事実にかんがみれば、右表示にあつては「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分はその書体も同一であり、「コンフエクト」部分に色彩を施したり、図案化したり、或は極端に離して書いておらず、「コンフエクト」部分の文字の大きさにおいても一般需要者が通常一見して判読できない程度のものではなく「ユーハイム」と「コンフエクト」部分が和解で許諾された限度で表示されているものであることが容易に看取することができるところである。そして、被告は、前記表示の外に、包装紙等量に前記商標「UHAIMU CONFECT」と人形商標を併せ用い、更に原告と被告の商標の識別力が強くなつていることが認められるところである。以上の如き、被告の本件第二表示の使用を見ると、未だこれをもつて自他の識別を著しく弱めるものとは認められず、本件和解によつて許諾された使用範囲内にあることが認められるところである。

なお、〈証拠〉を併せ考えると、被告が「ユーハイム・コンフエクト」を商号、商標として前記の如き本件第二表示を用いたため、日本割烹学校発行にかかる料理雑誌「マイクツク」昭和四三年一二月号に被告の製品デコレーシヨンケーキを原告の製品と誤認した記事が記載されたり、昭和四六年一〇月一日付のサンケイ新聞において被告の製品のシユークリーム中毒事件について原告の製品と誤認した記事が記載され、右につき需要者から原告への抗議の手紙が来たり、その他一般需要者に対し原告の商標「ユーハイム」と混同誤認を生ぜしめた事実があることが認められるが、右混同誤認も原告が「ユーハイム・コンフエクト」の使用許諾の結果生じたものであり、そして被告の商号、商標としての本件第二表示の使用も前記のとおり使用許諾の範囲内にあると認められるのであるから、原告においてはそれによつて生じた混同誤認の結果はこれを受忍せざるを得ないものというべきである。

七なお、原告は、最近においては「コンフエクト」部分を砂糖菓子、或は砂糖菓子店という普通名詞に近い感覚でとる者が多くなつた現在においては、本件第二表示は「ユーハイム・コンフエクト」の表示ではなく「ユーハイム」の表示であると主張するも、「コンフエクト」を砂糖菓子或いは砂糖菓子店と直感する程外国語の知識が一般に普及していないことは当裁判所に顕著な事実であり、従って、右主張は理由がない。

八更に、原告は、被告の本件第二表示はこれまでの被告の商標使用の経緯、態様から見て、それは明らかに不正競争的使用であり、権利濫用であると主張するも、本件における全証拠および前示認定の諸事実その他諸事情を考えても、にわかにこれを肯認することはできない。

以上のとおりとすれば、被告が現に使用している前記の如き本件第二表示は、原告の本件和解による使用許諾の範囲内にあるというべきである。従つて、被告の本件第二表示の使用は何等本件和解に違背しているものといえないから、原告は被告に対し、本件第二表示より更に一般的に差止を求める第一次請求の趣旨の本件大小・二段書き表示の差止を求めることは出来ず、又、予備的請求の趣旨の本件第二表示の差止を求めることは出来ないと言わなければならない。

第二予備的請求について

原告の「ユーハイム」なる表示は、原告の商品及び営業を示す表示として少なくとも神戸市及び名古屋市内において広く認識されているところ、被告は原告の右表示と類似する本件第二表示を被告の商品又は営業を示す表示として不正に使用し原告の商品又は営業上の施設又は活動と混同を生ぜさせていると主張するに対し、被告は、仮りに、本件第二表示の使用が不正競争防止法一条一項一号二号に該当するとしても、右使用は本件和解によつて、使用許諾されたことに基くものであるから違法性を阻却されると抗争するので判断する。

およそ、不正競争防止法は不公正な手段によつて行われる競業行為を排除し、公正な競争秩序を維持し、もつて、特定営業者の私益及び需要者一般の公益を保護しようとするものであるが、同法の個々の規定においては私益の保護に重点のある類型と、公益の保護に重点をおく類型があるところ、後者においては被害者の承諾が違法性を阻却しないが、前者においては違法を阻却されると解するのが相当である。ところで、同法一条一項一号二号の規定は私益保護に重点が置かれる規定と解されるから、一般に周知表示使用者の使用許諾は違法性を阻却するものと言うべきである。そこで、本件につき考えるに、本件和解によつて「ユーハイム・コンフエクト」という商号、及び商標の使用を許諾し、その表示方法として格別の制限を設けなかつたこと、そして被告が前記認定のような本件第二表示の使用は本件使用許諾の範囲内にあり、従つて、これによつて生ずる或程度の混同誤認は原告において受忍せざるを得ないことは前記のとおりであるから、仮りに、原告の「ユーハイム」なる商号、及び商標においていわゆる周知性があり、被告の「ユーハイム・コンフエクト」という本件第二表示が原告の右商号、商標と類似性があり、被告が右表示を使用することにより、原告が主張するように原告の商品並びに営業上の利益を害せられる虞があるとしても、被告の本件第二表示を使用する行為は違法性を阻却され、いわゆる不正競争行為を構成しないものといわなければならない。

したがつて、原告は被告に対し不正競争防止法一条一項一号二号に基づき第一次請求の趣旨の本件大小・二段書き表示の差止を求める権利、及び予備的請求の趣旨の本件第二表示の差止を求める権利はいずれもこれを有しないといわなければならない。〈後略〉

(中村捷三 住田金夫 小松一雄)

別紙(一)

別紙(二)

和解条項

一、原告は被告が株式会社ユーハイムコンフエクトなる商号及び片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」並びにローマ字による別紙記載書体の商標の使用を認めること。

二、原告は被告の「ユーハイム・コンフエクト」なる片仮名による商標の登録につき現に特許庁に対して申立てている異議は後記五十万円の支払いと同時に申立の取下書を被告に交付すること。

三、被告は第一項記載以外の商標、特に別紙表示の原告の商標と同一又は類似の商標を使用しないこと。

四、被告は原告に対し和解金として金一二〇万円の支払義務あることを認め昭和三〇年四月末日に内金五〇万円也、同年五、六、七月の各末日に金二〇万円也宛、同年九月末日に残額十万円也を本件原告訴訟代理人弁護士竹内岩男事務所に持参又は送金して支払うこと。

五、被告において右前項の支払いを一回でも一週間以上遅滞した時は残額を一時に要求されても異議ないこと。

六、原告は被告に対し右以外に従来の本件係争商号及び商標の使用に基づく損害賠償の請求権なきことを確認すること。

七、原告はその余の請求を放棄すること。

八、訴訟費用は各自弁とすること。

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